本を読んでいると、美しい言葉に出会う。

 そのような経験はありませんか?


 

 心に残っている出会いの一つに、「け衣」という言葉があります。


 

 織物職人が、自らの心の中に最愛の女性を住まわせ、その幻の女性を想いながら作った着物。

 

 衣桁いこうに懸けたままで、決して誰にも袖を通させない。

 

 職人が美しい情念をもって、ただその女性のためだけに技巧を凝らして作る。

 あるいは一人、この着物を眺めながら、盃を傾けていたかもしれません。

 

 ……そして、この職人の心こそ、日本的美の精神といえるでしょう。



 

 長野県に諏訪湖という湖があります。

 

 その諏訪湖地方の神様は、建御名方神たけみなかたのかみとその妃八坂刀売神やさかとめのかみ

 

 天つ神に国譲りした国つ神の神々の話は、かつて大陸から渡ってきた仏教とそれを排斥しようとした戦いを想起させます。

 その戦いで聖徳太子や蘇我氏と戦って敗れた守屋の一族が、この湖に落ち延びてきたともいわれています。

 

 御柱おんばしらの勇壮な祭を伝える古き歴史が息づくところですが、ここには明治、文明開化以降についた別の呼び名があることを知っていますか?

 

 それが「東洋のスイス」です。

 

 精密機械工業が盛んとなり、諏訪地方の新たな産業となったのです。


 

 2013年。小さな砂時計が発売されました。

 高さ8センチメートルの小さな1分計。

 開発したのは、チーム「SUWA±5μ」。

 

 わずか高さ8cmの筐体に驚くほどの技術が込められています。

 

 サイズの誤差僅か0.005mm以下という、精密な金属粉の砂。

 

 人口骨に使われるコバルトクロムモリブデン合金。超微細粒ステンレスに、職人芸といえる切削研磨加工技術。

 

 異業種が集まって結成したチーム「SUWA±5μ」だからこそできる、我が国の技術の粋を集めた砂時計です。



 

 古い伝統の上に新しい産業が加わる。

 歴史を通貫する日本人らしさ。

 

 それは常に技術を磨きつづけようという職人魂、……「美」なるものを求める心にあるのではないでしょうか。

 

 物語を紡ぐ。絵を描く。情景を撮る。身体で表現する。

 

 今日もまた、日本のどこかで多くの方々が、みずからの技を磨いているのです。


 

 ……さあ、私も執筆しよう。

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